落花
ぽとりぽとり、ぽとりぽとり
花びらを広げることもなく椿が蕾で落ちていた。
色を出してあげたいと思った。思ってしまった。

火にかけた椿の花は熱を帯び
ゆっくりゆっくり内側に秘めた色を放つ。

はじめて糸を染める。
おそるおそるゆっくりと。
少しずつ糸は椿の体液を吸い
みるみる美しい色を纏いはじめた。

魅せられた。息を呑んだ。
本気で時が止まりますようにと祈った。
暮れる間のほんの一瞬のあの色だ。
離れたくないと思った。
ずっと離したくないと思った。
恋焦がれる、そんなものに近い感情を味わった。
わたしは椿という花の魔力に落ちた。
そして椿は糸の中で満ちた。
2025.穀雨